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最高裁判所第二小法廷 昭和43年(オ)880号 判決

上告人

黒崎照恩

代理人

半沢健次郎

被上告人

阿部与輔

代理人

小野崎正明

主文

原判決を破棄し、本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

理由

職権をもって按ずるに、原判決(その引用にかかる第一審判決を含む。)の確定した事実によれば、上告人は、昭和三二年七月一一日、その所有の福島県安達郡岩代町大字百目木字広平一番の五山林五〇、六一四平方メートル(以下「本件山林」という。)中東南隅五四、五四メートルに一〇八、〇八メートルの矩形面積外一箇所の黒御影石材の採掘権を被上告人に与え、その対価を二〇万円、採石期間同年七月一一日から同四二年七月一〇日までと定め、被上告人は、即日右二〇万円を上告人に支払った。しかるところ、上告人は、同三二年七月下旬本件山林全部を訴外馬上堅次に売り渡して了ったというのであり、原審は、右事実を確定のうえ、上告人が本件山林の全部を右訴外人に譲渡したことにより被上告人の採石は不能になったとして、それにより被上告人の蒙った損害の賠償を上告人に命じている。

しかし、原審の右に確定した事実によれば、上告人は、被上告人に対し採石法の適用を受ける採石権を設定したものと解しうる余地があり、そうだとすれば、採石権は物権として地上権に関する規定が準用されるから、採石権の設定については、民法一七七条、不動産登記法一条、昭和三五年法律一四号による改正前の不動産登記法一二七条ノ二(右法律による改正後の同法一三三条)により設定登記を経ていれば、その取得をもって第三者に対抗しうるところであると共に、右採石権が設定された本件山林自体の所有権の得喪変更についても、登記による対抗要件を経なければその所有権取得をもって採石権者として正当な取引関係に立つ第三者たる被上告人に対抗することができないところである。したがって、本件山林が訴外馬上に譲渡されることによって被上告人の採石権の行使が不能となったとするためには、前記各登記の有無について確定しなければならないところ、原審がこの点についてなんら審理判断することなく(本件記録によれば、被上告人に対する採石権の設定登記も、上告人より訴外馬上に対する所有権移転登記もなされていない事実がうかがわれる。)、前記確定の事実をもってただちに被上告人の採石が不能になったとしたのは、採石法四条、民法一七七条の解釈を誤るものであり、右解釈の誤りは判決に影響を及ぼすこと明らかであり、論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、さらに審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻す必要がある。

よって、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(石田和外 草鹿浅之介 城戸芳彦 色川幸太郎 村上朝一)

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